宇宙とジンクス:宇宙飛行士の験担ぎ

宇宙飛行士――人類の夢と科学の最前線に立つ存在。彼らは冷静で論理的な判断力を求められる職業ですが、意外なことに“ジンクス”や“験担ぎ”を大切にしていることをご存じでしょうか。宇宙という極限環境では、わずかな不安や迷いが命取りになるため、精神を安定させるための信仰的な行動が重要な役割を果たしています。今回は、NASAやロシア宇宙局などで語り継がれる宇宙飛行士たちのジンクスを紹介します。

1. ロシア宇宙局の伝統:ユーリ・ガガーリンから続く儀式

最初の宇宙飛行士、ユーリ・ガガーリンが1961年に宇宙へ旅立つ前に行った行動が、今もロシアの宇宙飛行士たちに受け継がれています。打ち上げ前にバスで発射台へ向かう途中、ガガーリンは「道中で立ち止まり、バスのタイヤに小用を足した」と言われています。それ以来、男性飛行士たちは縁起を担いで同じことを行うようになりました。

また、出発前夜に宇宙飛行士たちは「映画『白い太陽の砂漠』を観る」という伝統もあります。これは成功を祈願する儀式として定着し、ロケット打ち上げ前の定番イベントとなっています。

2. NASAのジンクス:冷静さを保つためのルーティン

アメリカのNASAでも、独自のジンクスやルーティンが存在します。例えば、アポロ計画時代の宇宙飛行士たちは、打ち上げ前に必ず同じ朝食を食べる習慣がありました。最も有名なのが「ステーキと卵の朝食」です。これは「高タンパクで安定したエネルギーを得る」ことに加え、「成功した先輩たちと同じ行動を取る」ことで心を落ち着かせる意味がありました。

また、NASAのエンジニアたちは「打ち上げ当日に“Good Luck”と言わない」という不文律を守ります。その代わりに「Godspeed(幸運を祈る)」という言葉が使われます。これも「成功を確約する言葉を避ける」というジンクスの一種です。

3. 個人ジンクス:宇宙飛行士それぞれの信じる儀式

宇宙飛行士たちはそれぞれ、自分なりのジンクスを持っています。ある飛行士は家族からもらったお守りをスーツに忍ばせ、別の飛行士は打ち上げ前に必ず「同じ順番でチェックリストを読む」と言います。これらの行動は、過酷な任務の中で“心の秩序”を保つための手段です。

日本の宇宙飛行士・若田光一氏も、出発前に家族や仲間に感謝を伝えることを欠かさなかったと語っています。「感謝の心が平常心を作る」という彼の言葉には、ジンクスを超えた“心の科学”が感じられます。

4. 科学の最前線と信じる力の共存

一見、科学とジンクスは対極にあるように見えます。しかし、人間は感情と共に生きる存在。宇宙のような極限状況では、心の安定が成果を左右します。NASAの心理学チームも、「信念を持つことは集中力を高める」と指摘しており、ジンクスが心理的支柱として働くことを認めています。

つまり、ジンクスは“非科学”ではなく、“心の科学”なのです。信じる行為が不安を鎮め、行動を整え、結果として成功を導く——それが宇宙飛行士たちの体験から学べる教訓です。

まとめ

宇宙飛行士たちのジンクスは、単なる迷信ではなく、極限の世界で自分を支えるための「祈り」と「集中の儀式」です。ガガーリンの伝統、NASAのルーティン、そして個人の信念——それぞれに共通するのは「人は信じることで強くなる」という真理です。宇宙という未知の世界を前に、彼らの験担ぎは人間の“信じる力”そのものを象徴しているのです。

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